陸上狂技マガジン

駆け出しのスポーツライターです。スポーツに関して【DO(する)】【WATCH(観る)】【READ(読む)】という観点から備忘録として書いております。

【Watch】21人の悩める男〜箱根駅伝観戦記『前夜』〜

クリスマスは、高校生にとっては“ハレの日”であり、大学生にとっては“胃痛な日”なのかもしれない。

 

陸上競技の話である。

 

12/25は男子第67回/女子第28回の全国高校駅伝都大路)であった。

 

詳細な結果はNHKのHPに譲るが、今回、“関西の雄”である兵庫県代表の西脇工高が、男子6位、女子2位という成績を収めた。同チームはここ最近女子も着実に地力を付けているが、以前までは男子の実績が目立っていた。全国制覇8回という偉業がそれを物語っている。

 

そんな西脇工高の、2012年度の男子チームに密着したドキュメンタリーを、少し前に視聴した。都大路に向かうまでのチームの成長を、個々人にスポットライトを当てながら追いかけている。その中で気になったのは、監督が、駅伝のメンバー(控え選手含む)や区間配置をまずは部員に決めさせるというシーンである。部員が決めたエントリーを監督がチェックする。疑問点を指摘し、選手が答える。その説得性によっては、監督が手を加える事は無い。今回の映像で監督が指摘した部分は控え選手の人選についてであったが、正メンバー選考も同じ様な形式で行われていると推測する。

 

中学校〜高校までの部活動においては、ややもすると監督のトップダウンになりがちである様に思う。そういった意味で、“まず部員に決めさせる”というプロセスを踏む事は効果的であると考える。というのも、場合によっては監督と選手の思惑の相違が浮き彫りになるので、一緒になって折衷案を考える事が出来る。時にはどちらかの意見の正当性を認めて譲歩するかもしれない。その時、監督と部員はある意味で対等になり得る。勿論そこに“監督へのリスペクト”が無いと、その先にはカオスが待っている。部員達自身の内省が強いからこそ、時に起こるであろう意見の食い違いがおかしな方向に行かずにまとまっていく。この年、西脇工高は都大路で2位に食い込んだ。勿論これは少数派の部類に入り、他県のチームは監督主体で選考を行っている場合が多いのではないかと思う。

 

ふと、大学駅伝ではどのようにメンバーが選考されているのだろうか、と思った。内情を取材している訳ではないので推測の域を出ないが、メディアの記事や専門誌を読む限りでは、おそらく監督主体で決めている事と思う。細かく言えば色々なパターンがあるのだろうが、取材に対して「選手に任せているので」と言う監督はあまり見た事が無い。内情を知ってか知らずか、メディア側も、“指揮官が区間配置を決めている”という前提で記事を書いている様に思える。この事から、大学駅伝に関しては、監督主体でメンバーを決めていると推測される。

 

では、(一般的には)“監督が決めている”という前提があるとして、もし西脇工高の様に“まず部員に決めさせる”というプロセスを踏んだ場合どの様な事が起こるか。おそらくは、上述の通り、時に食い違い、時に譲歩し、監督と部員で最適解を模索していくと思う。今まではレース直前に監督が伝えるオーダーを待つというものが、まずは部員が決めたオーダーを監督が待つという事になる。チーム運営に関して両者が主体性を持つという事だ。多くのチームは監督と部員が寝食を共にしているだろうけれど、より多くの時間を共に過ごしているのは選手同士ではないかと思う。勿論、仲の良し悪しや、普段行動を共にするグループもあるだろうし、そこから決定のバイアスが生まれる可能性も否定は出来ない。ただ、“事前に自分たちで纏める”という事が前提になった時に、監督、主務、主将だけでない各部員が、チームマネジメントの視座を得る。結果として、競技に留まらない範囲の好影響を及ぼす事は考えられないだろうか。それは、実業団の長距離チームにも言える事ではないかと思う。

 

と、ここまで書いてはみたものの、それは中々無謀な事だろうと思うに至る。というのも、大学駅伝(特に箱根駅伝)や全日本実業団駅伝(ニューイヤー駅伝)は大学や企業、後援会等から少なからぬプレッシャーを受けているであろうし、指揮官も高校までの体育教師ではなく、その為に雇われた監督という場合も多い。部員数の問題もあるだろう。そんな中で、選手に対して“走る”以外の責任を与える事は荷が重すぎるのかもしれない、と……。

 

映画『十二人の怒れる男』では、陪審員たちが殺人容疑の少年に対する罪の有無を巡って侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を交わす。その中で、たった一人無罪を主張する陪審員は、他の十一人に対して、固定観念にとらわれずに、証拠を再検証する事を要求する。来年で93回目を迎える箱根駅伝。ここ数年の間に幾度かコースは変わったものの、走る人数、開催時期、時間帯、放送内容は大きくは変わっていない。ただ、“学生スポーツの王道”としての地位は貫き続けている。規模はある。だが、固まってはいないか。日本のロングディスタンス陣が低迷しがちな昨今において、王の小さな発想の転換は、大きな変化に成り得る。などと勝手に考えている今日この頃である。

 

門外漢が偉そうに書いている今も、各チーム二十一人の指揮官たちは、頭を悩ませている事だろう。正月、誰が箱根路に立つのかを。

 

第93回箱根駅伝、まもなく、である。

 

PS:上記ドキュメンタリーは2012年度。この時、高校3年生だった選手達は、今年の大学4年生。同番組にも出演していた西脇工高当時のエース、中谷圭佑選手(現・駒澤大)も最後の箱根路を迎える。 

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