陸上狂技マガジン

駆け出しのスポーツライターです。スポーツに関して【DO(する)】【WATCH(観る)】【READ(読む)】という観点から備忘録として書いております。

【Do】ランニング16年目で気づいた“自転車走法”

小学6年生から開始したランニングも今年で16年目を迎えた。

 

何やら企業の年頭挨拶の様だが、単なる趣味の話だ。しかし、例えば16年も存続する企業であれば、ある程度ビジネスモデルも確立し、創業当初に比べると業績も安定している時期ではないだろうか。

 

他方で私はと言えば、16年もランニングを続けていながら、未だにフォームというものを確立する事が出来ていなかった。ここで言うフォームとは、効率的に長距離を走る為の型という事にしておきたい。

 

フォームは確立されていなかったが、走りの癖は中学生の時点で確立されていた。良い点は上半身のブレが少ないという事。悪い点はやや前傾姿勢になりながらも、及び腰になっている(腰が引けている)という事である。なぜ上半身のブレが少なくなったのかというと、当時、“長距離を走る場合は上半身のブレを少なくした方が良い”という意識に基づき、上半身の筋トレを積極的に行った為かと思う。後者の悪癖の要因は、単なる筋力不足という事もあると思う。加えて、中高生時代、度重なる故障により、足を前に踏み出す事に恐怖感を覚えたり、自分のフォームに対する周囲の視線が気になって脚の動かし方が分からなくなる様な感覚にとらわれる事が度々あった。そういった不安を拭いつつも騙し騙し走り続けた結果でもある様に感じている。当時は自暴自棄になっていたから、周囲のアドバイスに対しても素直になれなかった。かたや、好きな選手や、好調な同僚の走り方を真似しては捨て、真似しては捨て、という状況。今になって思えば、精神的な側面という意味で、これは俗に“イップス”と呼ばれる症状なのかもしれないが、確証は無い。イップスについては別の機会に調べてみようと思う。

 

この、“腰が引けている”という状態が、上半身と下半身の動きを分断してしまう。“ワタシ”という同じ人間の物でありながら、“腕を振っている上半身”と、“足をバタバタさせている下半身”というまるで連動性の無い二つの動体に分かれてしまっていたわけだ。さらに、及び腰なので、いわゆる“腰の入った走り”が出来ない為、足が胴体のやや後方部で回転する様な動きになり、地面からの反発を推進力に変換しづらくなっていた。とはいえ前に進まなくてはいけないので、動力源をキック(後方への蹴り出し)に頼りがちになる。すると、ふくらはぎがすぐさま疲労し、足が短時間で悲鳴を上げ始めるという悪循環である。

 

こういった客観的事実を自覚したのは、2つの事が関係している。

 

1つ目は、同級生である。

昨年末より、大学の同級生だった元陸上選手から、走りの動作に関する手ほどきを受ける機会を月イチで持っている。彼は今まで、元トップアスリートの経営する企業のスタッフとしてコーチングを行っていたが、それを今春から個人事業として始めようとしている。彼にフォームの癖に関する指摘を受けたのだ。今まで漠然と抱いていたランニングフォームの違和感が、言語化される事で腑に落ちた。加えて、脚の引き上げ、脚の接地点、接地以降の動作(地面を押す感覚)に関してのアドバイスを貰った。

 

2つ目は、ゲタである。

先日、皇居を一本歯下駄で周回するという練習会に参加した。とあるトレイルランイベントで知り合った方に誘われて参加したものだ。一本歯下駄は、名前の通り歯が一本のみの下駄である。これで走るのだ。最初は『下駄なんかで走れるのか?』と半信半疑であったが、意外と走れ、楽しい。最も驚いた点は、一つ目の同級生からのアドバイスと、下駄ラン時の感覚がシンクロした事である。一本歯下駄は足元が不安定の為、地べたを“面”ではなく“点”で捉える事になる。従って、後方への蹴り出しがしにくい。必然的に、脚を前方に“抜いていく動作”の繰り返しで推進力を生み出していく事になる。

 

2点を纏めて、自分なりに一言で表すと、“より大きな筋肉で走る”という事だ。逆に言えば“小さい筋肉はあまり使わない”という事になるのかもしれない。

 

これは、自転車のペダリングにも通じる話の様だ。ペダリング時は、足裏がビンディングシューズでペダルに固定されている場合、脚の引き上げと押し込みで加速する。その際、使う筋肉は“大腿部(太もも)の前後”である。反面、ふくらはぎ部分の筋肉は立ち漕ぎ時以外、あまり使わないという事になる。

 

というわけで、昨日、早速実践の場を得た。

 

千葉県民マラソンの10km部門に出場し、“自転車を漕ぐ様なイメージ”を意識して走った。ふくらはぎを使わずに、大腿部の筋肉を主に動員する。身体は前傾し過ぎず、腕は上部に振り上げるイメージ。すると、以前とは異なり、スムーズに身体が前進する感覚を得た。最後には、温存していたふくらはぎの筋肉も使い、ラストスパートを行う。キロ平均3分50秒強と決して速度は無いが、走り込みによってスタミナを蓄積した際、押して行ける様な感覚を持った。同級生と下駄によってもたらされた省エネ走行の威力であった。

 

おそらくこれらの要素は、ある程度真剣に走っている人であれば、常識なのかもしれない。しかし私の場合、周囲のアドバイスが助力になり、16年目にしてようやく、ランニングフォーム確立の入り口に立ったわけだ。今まで騙し騙し走っていた“自転車操業”状態を脱却したのは、皮肉にも、自転車走法なのであった。(終)

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